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「協働的な学び」の根底にあるもの

 

「協働」という語は、よりよい社会づくりなどの目的のために力を合わせる際に用いられる。R3答申では「協働的な学び」について、「子供同士で、あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、様々な社会的な変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となることができる」ことを求めている。子供たちにとって協働する他者は学校内外に様々に存在する。ICTの活用により、他の学校や地域、そして海外とも時空を超えて交流が可能となる。授業改善の方向は広がる。

当の子供たちは、「協働的な学び」をどのように受け止めているのだろうか。子供たちは学校生活においてそのほとんどを教室で過ごす。小規模校であれば、6年間(9年間)同一の学級集団に在籍する場合もある。固定化された集団における知力や体力の側面は、その序列が目に見えるかたちで認知されがちである。学力不振の子供に自己効力感を育むことは簡単なことではない。

では、どうすればよいだろうか。全国学力・学習状況調査の児童生徒質問紙調査の経年結果の分析によると、「人の気持ちが分かる人間になりたい」「自分にはよいところがあると思っている」の項目に肯定的な回答した子供は、有意に正答率が高い状況にある。学力向上には、集団の成員の人権感覚や自己肯定感が関与していることが示唆される。学力が高い子供とそうでない子供が混在する中での「協働的な学び」の実現には、子供一人一人の学校や学級集団への所属意識の強化や支持的な風土の醸成が鍵を握る。

 集団がより崇高な真善美の方向へ進むとき、時にその勢いのようなものに気後れしたりネガティブな感情を抱いたりすることはないだろうか。他の誰でもないその子供にとっての教室空間に安全と安心が保障されなければならない。「協働的な学び」の実現の成立には、社会の縮図となる教室空間に「◎」・「○」・「△」・「×」が存在することを再確認したい。「教室は間違うところ」と言われるが、子供の視座に立つと「教室に間違いはない」のかもしれない。間違い(恥をかきたくない、馬鹿にされたくない)を恐れて、発言を避けるのは当然の感情であろう。当然、教科の知識・技能の側面においては「△」や「×」の状況は在在する。要は、そのような子供の「全然(はっきりとは)分からない」という内なる叫びや困り感が尊重されているか否かである。

筆者は、全国の研究授業を参観する機会がある。そこで気付くことが、教師の発問に対して挙手を求め、教師が指名を繰り返す一問一答の授業展開の多さである。それを卓球に例えて“ピンポン型”授業と呼んでいる。一方、“バレーボール型”の授業もある。教師の発問(サーブ)に子供がパスをつないでいく。3回で教師に返さなくてもよい。この“バレーボール型”は教師に返答するのではなく、子供同士でパスを回すところに意味をもつ。「他にありませんか」と子供が友達に問いかける。中には、挙手を求めず「○○さんはどう考えますか」と勝手に指名する場面もある。指名された子供は、渋々と発言することもあるが、そこには協働の気運がある。

こうした一問一答型から一問多答型を子供主体で展開するとき、もう一工夫を求めたい。それは、「前置きの言葉」である。発言の冒頭に「○○さんと似ていますが」と前の人の考えに付加したり、「○○さんとは違う考えですが」と立場を明確にしたりすることはある。そこに、前述した困り感を吐露する言葉を前置きする。「考えがまだまとまらない…」「なかなか結論が出ない…」「分かるようで分からない…」等々、子供の心中にある「…(三点リーダー)」のような率直な思いを自分の言葉で伝えようとするとき、分かったつもりでいる子供たちに刺激が与えられる。一面的な見方が「△」や「×」の中にある多面的な見方に触発されたとき、集団で学ぶことのよさを実感的に理解できるようになる。

子供相互に一人一人の資質・能力、特性や嗜好、思考や信条などの違いを一層尊重し合い、他者のそれらに学ぶという姿勢を育むことが必要である。個々の困難さや素朴な問いに共感し、つぶやきや声なき声にまで傾聴する、そして、それらを共有しようとする教室空間づくりが「協働的な学び」の実現に向かう。「協働」には、同じ目的を共有しようとする意思が必要である。多様な個性をもつ他者を尊重し、対等の立場で協力して共に働くことが、「協働」の本来の意味である。「協働」を通して集団に絆が生まれていく。

 

拙著、『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」』、2022、明治図書、pp.11-12

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