
学習者主体へと導く授業づくり
■FOCUS1:“アクティブ・ラーニング”と“アダプティブ・ラーニング”の流れ
「主体的・対話的で深い学び」は、“アクティブ・ラーニング”の文脈に位置付くものです。昨今登場した“個別最適な学び”は、“アダプティブ・ラーニング”の文脈に位置付くものです。アダプティブとは、適応性を意味します。アダプティブ・ラーニングとは、一人一人に最適な学習内容を提供して、より効率的に学習を進める方法を検討することが重要な視点です。アダプティブが叫ばれる背景には、教室の中に広がる多様な子供の存在があります。発達障害や特異な才能、家で日本語を話す頻度が少ない子供、家庭の文化資本の差による学力差等、学級には様々な特性をもつ子供が存在し、これらの特性が複合しているケースもあります。同学年による同年齢の集団は、同調圧力が働きやすく、学校に馴染めず苦しむ子供も一定数存在し、不登校・不登校傾向の子供は年々増加の一途をたどっています。さらには、一斉授業スタイルでは一定の学力層に焦点を当てざるを得ず、結果として、いわゆる「浮きこぼれ」「落ちこぼれ」双方を救えていない現状があり、また困難を抱えていても、そうした状況を周りが見取れずに見過ごされてしまう場合もあります。
このように、子供たちが多様化する中で、教師一人による紙ベースの一斉授業スタイルは限界にきているという現状認識です。これまでは、どちらかというと「決められた教室・学年の中で、一律の目標の下で、一律の内容を、一律のペースで、一斉に、受け身」の学びの展開が主流でした。これからは、「居場所や学年、時間の制約を必ずしも受けず、自分の個人目標と選択をもとに、多様な内容を、多様なペースで、個別に、時に協働で、能動的」な学びへと転換する時代が到来しています。自由進度学習という授業スタイルも各地で展開されているようです。「個別最適な学び」を促進する授業方法であると考えます。方法論は、その目的を踏まえることが前提であり、各教科等や教材の特性、子供の発達の段階を考慮して導入することが大切です。方法論の全てを是としたり頭から否定したりするのではなく、実践を通した成果は大いに共有していきたいものです。
多様な子供たちを誰一人取り残すことなく育成する“個別最適な学び”の視点として、「指導の個別化」と「学習の個性化」が挙げられています。教師にとっては、個に応じた指導を充実し強化することは当然の営みです。これまでも個を大切にする実践は行われてきましたが、今後はICTの一層の活用が期待されています。大雑把に捉えると、「指導の個別化」の推進には、ICT活用はマスト(~ねばならない)となります。徐々に文房具のようになっていくに違いありません。ICTを活用した「指導の個別化」は一定の目標意識が重要であり、いわゆる「習得」の局面で個の状況に応じた指導の工夫が求められます。ICTを活用することにより、全員一律に目標を達成することが肝です。みんな違っていいではなく、みんな一定程度同じになる必要があることを忘れてはいけません。
一方、「学習の個性化」は異なる目標設定を可能にしますので、「探究」の局面をイメージすると分かりやすいかと思います。算数科では、応用や発展の段階がそれに当たります。国語科であれば、第三次の段階に「探究」の幅を用意することは可能です(例えば、「ジグソー学習」)。「活用」という段階は、「習得」と「探究」の中間に位置付くので、どちらにシフトするかは随時の判断となります。「習得」の延長色が強いのか、「探究」の入口と捉えるかで、「指導の個別化」か「学習の個性化」を区別すればよいのです。各教科の指導においては、生活科や総合的な学習の時間とは異なり、まとまった「探究」というイメージが薄くなる場合もあります。というよりは、「探究」は、教科書に沿わない、教科書を離れるといったイメージかもしれません。それは、時に特設単元であったり、合科的な複合単元であったりするイメージです。知識・技能の習得が中心となる段階において、無理に「探究」を組み入れる必要はないと考えます。いずれにせよ、それらの位置付けやバランスは年間の見通しや単元・題材のまとまりで検討することが重要です。
■FOCUS2:国際的な視点(2030ラーニング・コンパス)を踏まえる
“学び”に関する教師の捉え方について国際的な視点からみることで、日本の教育の現況が分かります。2013年OECDによるTALIS(教員環境の国際比較)では、日本の教員は児童生徒の主体的な学びを重要視しているものの、それを引き出すことへの自信は低くなっています。特に、「関心を示さない児童生徒への動機付け」「勉強ができると自信をもたせる」「批判的思考を促す」の回答率は非常に低迷しています。教師が指示どおりに子供を動かせることではないことは頭で理解していても、子供たちの主体的な学びを保障するところまでに至っていない現状があります。
OECDが出している2030ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)は、キー・コンピテンシーの改訂版です。OECDは2030年時代をVUCA(Volatile、Uncertain、Complex、Ambiguous:予測困難で、不確実、複雑で、曖昧)と呼んでいます。こうした時代にたくましく生きていくために、やはりアクティブな学びは極めて当然のことのように感じます。学びの主体は、未来を生きていく学習者(子供)であるという原点回帰が求められています。OECDは、VUCA時代の到来に対し、「エージェンシー」という概念を示しています。
❖エージェンシー(agency)
一言で言うと、「行為主体」「行為主体性」。OECDのラーニング・コンパスの中心的な概念とされ、特定の学問分野に依拠したものではない。OECDでは、「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する能力」と定義される。
①結果を予測すること(目標を設定すること)
②自らの目標設定に向けて計画すること
③自分が使える能力や機会を評価・振り返ること(自分をモニタリングすること)
④逆境を克服すること
日本の学校は、世界と比較し、学習に対する所有権(a sennce of ownnership)が十分でないために、自分の学習を教師や周りの人と協働でつくっていくことに十分ではないことが指摘されています。OECDは、子供たちがエージェンシーを発揮して、2030年のwell-beingを実現していくことの重要性を強調しています。
■FOCUS3:“問いたい問い”を“問うべき問い”(質の高い:意味、意義、価値)に
小生は全国各地に赴き、多くの各教科等の授業を参観しますが、どの授業でもほぼ「めあて」は提示されます。板書される場合や予め用紙に書いてある場合もありますが、どちらもそれは教師主導で示されることが多いのが現状です。そのとき、小生は「これは『課題』であり、『問題』ではないな」と感じます。その「めあて」は課せられたもので、子供たちが発見していないからです。でも、そのことを否定しているのではありません。その「めあて」は、「問題(問い)」、「課題」、「目標」のどれなのか、について自覚的になることが重要です。「問題(問い)」はquestion、「課題」はmission、「目標」はcanであり、これらはtaskとなり提示されます。要は、学習評価との関連を考慮し、それを最終的に解決したり実現したり到達したりした子供の姿をクリアに描くことです。逆向き設計の授業やゴール(まとめ)から構想する授業は重要です(ゴールは教師の想定を超えることもあり)。算数科においては、単位時間の導入段階において「問題」から「課題」の流れ(逆の捉えもあり)をたどることが多いように感じます。両者を区別して認識しようとしているからでしょう。外国語科(活動)の「めあて」は、「Today’s Goal」と提示されますが、それは目標レベルではなく、活動を中心にした文言になっている場合が主流のように感じます。社会科は、「なぜ、どうして」といった疑問形で提示されるのが一般的かと思います。
各教科等の授業では、問題の生成に注目し、その持続化を図りながら、解決のプロセスをどのようにデザインするかに力点が置かれる場合があります。逆に、教師が巧みな動機付けを通して、学習者の興味・関心を高めた上で設定する課題に即し、一定のプロダクトを生み出すことを重視する場合もあります。それは、PBLの頭文字のP(problem・project)を明確にすることにつながります。そのことで、その後のプロセスやゴールが見えやすくなるのではないでしょうか。軸は、単元や一単位時間にはどのような設定意図があり、どのような資質・能力を身に付けるのかを明確にすることが前提であり、学習者の“問いたい問い”を“問うべき問い”に昇華していくことではないかと考えます。
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